わたしの家は龍神ではすごく古くから家で農業と林業を営んで来ました。
父はずっと林業で生計を立てていました。
私が幼い頃は龍神村の林業は盛んで、林業で生計を立てている人達が周囲に沢山いました。
それが1980代を境に林業が衰退し、今では山林の管理、いわゆる山の手入れをする人がめっきり少なくなりました。
老木が丸ごと伐採されていたり、植林されずに放置されたまま荒れ放題になっている山林も珍しくありません。
荒れた山林をそのまま放置すると木の根が枯れて雨などで土砂崩れなどの災害が起こりやすくなります。
山林の管理を怠ると、せっかくの山林がマイナスの価値を生み出すことがあるのです。
現代の山主は伐採した木を売ったお金で次の植林をすることがなく、周囲を見渡すと禿山や土砂崩れが起きている山林が増えてきています。
山林を育てるには苗を山に植えて一人前の山林を作るには、使用目的にもよりますがどんなに早くても20~30年の年月がかかります。
たとえ植林したとしても、山林の管理をせずそのまま放置すると雑草が苗の周囲を覆い、せっかく植林した苗に当たっている日光を遮断してしまい苗を枯らしてしまいます。
木をうまく育てるには、植林した木の周囲の草を毎年2回は刈り取らなければなりません。
そして、木の根を深く育てるには間引き、いわゆる間伐を適度にしなければなりません。
林業が衰退した後の龍神村では、間伐が全くされていない山林をよく見かけるようになりました。
山林の間伐がされないと木と木のあいだが狭まり山肌に差す日光の力が弱まり木の成長をストップさせてしまいます。
木の成長がストップすると山林に木の根が張らないので、雨などで土砂崩れ等の災害が出やすくなります。
2011年9月に上陸した台風12号では、和歌山県内で死者100名を超える大惨事が起きましたが、このときに崩れた杉や桧の山林は全て間伐が十分にされていなかった山林です。
人工の手が一切入っていない自然林(雑木林)は、土砂災害などはまず持って起こりません。
事実、わたしが保有しているクヌギや樫、椎の木などの雑木林は、これまで災害が出たことは一度もありません。
雑木林の山林管理のコツは元からある木の根をしっかり育てるところにあります。
木を伐採して切り株を綺麗に残すと、その切り株から新しい芽が出ます。
その芽が木に育つと元からある木の根がそのまま残るので「木を伐採する、そして良い木を育て、また伐採する」という木の再生サイクルが良好に回り始めます。
ちなみに、わたしの場合は、山林で切り出した太い木を椎茸の原木に利用しています。
杉やヒノキは切った後の切り株から新しい芽が出てくることはありません。
従って、雑木林の山林管理の方法とはアプローチが少し変わります。
杉やヒノキの山林管理は、徹底的な間伐がポイントとなります。
山林を間伐(間引き)するときは一面伐採したり、細い木を切らずに、太い木を選んで適度な間隔で切ります。
そうすると太い木に養分を取られていた細い木が太い木に育ち、太い木は資源活用できます。
植林をせずとも少しずつ間伐の手を入れ継続し木の根を上手に育てることができれば災害に強い保水性の高い山林となるのです。
なお、杉やヒノキの間伐は、山肌に日光が届くように間をあけるのがとても重要となります。
龍神の場合は、杉山の下に”うらじろ”などのシダが生えてくるぐらいには日光を入れたいものです。
杉やヒノキも木の再生サイクルが回り始めると長期的な資源利用ができます。
山林の木々を全て伐採して金銭に買えれば一時的な儲けは出ますが、その後の植林や木が育つ時間、或いは災害のリスクを考えると間伐を上手に行いながら山林を活かす管理方法が最も建設的な林業の形だと思います。
平成30年11月吉日
エムトゥーアール株式会社
代表取締役 寒川善夫